香港ポスト ロゴ
  バックナンバー
   
最新号の内容 -20150101 No:1422
バックナンバー

 


マーケティング/リスク管理のための
ソーシャルメディア情報の活
 インターネットには次々と新しい媒体が生まれています。それらの中でも利用者が気軽に情報を発信することができる媒体は特にソーシャルメディアと呼ばれており、その多くは新聞、雑誌あるいはテレビといった既存メディアと比較しても宣伝効果や販売促進効果を高く見込める場合があることから、積極的に利用しようとする企業が増えてきています。しかし、ソーシャルメディアが社会に浸透する一方で、情報漏えいやマナー違反等をきっかけとした企業や個人への批判的意見の集中、いわゆる「炎上」への対応が必要となってくる事例も増加しています。本稿ではソーシャルメディアの情報をマーケティング活動に利用する手法やインターネット上のリスクに対応する手法をご紹介します。
(デロイト トウシュ トーマツ香港事務所 佐々木英樹)

 
 
ソーシャルメディアとは

 ソーシャルメディアはインターネット(以降、ネット)を介することによって簡単に世界中に情報を発信することができる媒体であり、代表的なものとしてツイッターやフェイスブックが挙げられます。新聞やテレビなどの既存産業メディアと比較すると、個人が利用できること、無料もしくは比較的安価であること、情報を発信するための認可や高価な資源が必要ないこと、が特徴として考えられます。

 

香港におけるソーシャルメディア利用状況

 欧米の先進諸国と同様に東アジア諸国においてもネットやスマートフォンの普及が進んでおり、それに伴ってソーシャルメディアの利用率が高まっています。その中でも香港は特にソーシャルメディアが広く利用されている国のひとつであり(図1)、以下のようなネット、ソーシャルメディアの利用状況があります。

・香港のネット利用者は約580万人、ネット普及率は73%以上
・スマートフォン利用者の96%以上が日々ネットを利用
・香港には約440万人のフェイスブック利用者が存在(Go-Globe社Webサイトより抜粋)

 スマートフォンの保有率もシンガポールと並んで東アジアで高い水準にあることから、香港でビジネスを展開するにあたってソーシャルメディアの影響を考慮することは最早必須であるといえるのではないでしょうか。

 

マーケティングへの活用

 ソーシャルメディア上にはレストラン、電化製品、観光地、化粧品など様々なサービスや商品に関する消費者の声が存在しており、前述の香港におけるソーシャルメディア利用状況を踏まえた場合、それらの情報を監視してマーケティングに活かすことは非常に有益であると考えられます(図2)。具体的には自社に関連する情報を収集することで強みや弱みを再確認する、競合他社の商品に対する消費者の意見を集めて自社製品の開発に活かす、市場の関心を推定して既存サービスを改善すること等が考えられます。近年はそのようなテキストマイニング(※1)による現状把握に留まらず、収集した情報に対してクラスタリング技術やモデリング技術といった専門的な統計分析を活用することで、より精度の高い成果を求めることが一般的になりつつあります。
 

 

ソーシャルメディア上のリスクへの対応

 またソーシャルメディア上の情報を監視することは、炎上(※2)を含む風評被害によるリスクや従業員の個人利用による機密情報漏洩のリスクを低減することにも繋がります。そのようなリスクへの対応は組織的に取り組むことが必要であり、一般的に以下の5つのプロセスで行われます。

・運営組織の整備(監視担当部署の明確化)
・方針・規程類の整備(ソーシャルメディア関連の社内ルールの整備)
・社内教育の実施(社員のソーシャルメディアに対する意識の向上)
・監視の実施(ソーシャルメディア上の情報収集)
・エスカレーションフローの運用(情報伝達経路の確立)

 ソーシャルメディア上のリスク対応に初めて取り組む場合は、まず上記プロセス中の「監視の実施」を行うことでソーシャルメディア上の情報量とその推移および論調を把握した後にその他のプロセスへ移行することを目指します。

 

おわりに

 東アジア諸国においてもスマートフォンの普及やネットワーク環境の整備に伴い、ソーシャルメディアを含むネットの影響力が高まっており、有効に活用できれば市場や競合他社の動向に素早く対応することが可能になります。しかし情報を収集する対象のネットサイトには留意する必要があり、事前にそれらについて調査していなければ想定していた情報が十分かつ適切に収集できない可能性があります。

 例えば一言にソーシャルメディアといっても様々なネットサイトが存在しており、その種類によっては情報を収集するために費用が発生するものや、そもそも情報収集に利用することが困難な仕組みのものも存在しています。また国によってネット利用者が情報を発信するサイトは様々であり、それを把握しないまま作業を進めると偏った情報のみ収集してしまい、思っていた成果が出ない恐れがあります。事前に十分な調査が可能かどうかは社内の人的資源に左右される部分も大きいですが、収集した情報をマーケティングに活用するのか、リスク対応に利用するのか、といった目的を事前に明確にしておき、可能であればソーシャルメディア業界の知識を十分に保持している現地社員の利用やネット上の情報を収集できるITシステムの有効活用も同時に検討することが望まれます。

 

※1…様々なネット上の情報から特定の単語に合致する情報のみを抽出すること
※2…特定の企業や商品に対する非難、批判、誹謗中傷等がネット上で急激に拡散すること
※本記事には私見が含まれており、筆者が勤務する会計事務所とは無関係です。

(このシリーズは月1回掲載します)

 

 

筆者紹介

佐々木 英樹(ささき ひでき)

Deloitte Touche Tohmatsu香港事務所エンタープライズリスクサービス部門コンサルタント。システム監査技術者、情報セキュリティスペシャリストの有資格者。大手システムインテグレータを経て2009年監査法人トーマツ(現有限責任監査法人トーマツ)入所。金融機関や保険会社のシステムリスク外部評価、システム監査やSSAE16をはじめとするIT関連の保証業務に従事。2013年よりDeloitte Touche Tohmatsu 香港へ赴任。香港資本の事業会社へのシステム監査、日系香港現地法人へのIT関連サービスの提供を行っている。連絡先:hidsasaki@deloitte.com.hk